発表 2004/10/23

新球団

今年もとうとうオープン戦の季節がやってきた。
うちの球団の初戦の相手は、噂のCというチームだ。

周知の通りおよそ20年ほど前にあたる2004年、「球界再編」が行われてからというもの、わが国のプロ野球の球団は合併、消滅、売却、新規参入を繰り返しつつ2リーグ、全12チーム前後で推移している。
チーム数のみに注目すれば安定しているように思えるものの、常に球界トップの人気を争う巨人、阪神以外の球団の平均寿命は4年程度と極端にに短く、野球人気の低迷ぶりが窺える。

そんな中、今年も新たに創設されたのがCだ。
経営母体はなんと球界史上初となる、地方自治体。
オーナーにあたるM市の市長F氏はこの事業を自身の目指す「スポーツによる町興し政策」の中核に位置付けている。これまた同県初のプロ球団になるということもあり、市民たちの反応もまずまずだ。

俺もこの市長のスピーチを以前聞いたことがある。
「我がチームの選手は扱い上、市の『スポーツ振興課』の職員です。他のチームの選手と比べれば収入もスズメの涙でしょう。しかし私は信じています!我がチームにはだからこそ私と同じく野球を真に愛する選手が集まるであろうと。」

アツイね。実に。

市長の予言通り、または市長の情熱にほだされてか有望な新人を中心に続々と選手が加入し、このチームが近い将来球界の台風の目になるであろうことを野球関係者に予感させた。
もちろん関係者だけでなく野球ファンにとってもこのCが一体どういうチームなのか興味深々であるらしく、自然とこの試合は世間の耳目を集めた。

しかし、これは逆に好都合だろう。
うちのチームは創設8年になる中堅老舗とでも言うべきチームであるが、最近はスター選手の在籍にも恵まれず毎年順位の中盤をさまよっているイマイチ地味な存在である。
久々に満員の観衆の目の前でうちのチームの存在感をアピールするチャンスだ。

1回の表、こちらの攻撃。
1、2番打者は子供騙しのチェンジアップを打ち損ねて凡退したがここで3番の俺が登場する。
ここからが本番さ。

初球から甘い球を投げてきやがる。
やっぱり公務員志向のぼっちゃんチームってとこか?そんな素直なボールじゃあ、この世界やっていけないぜ。
迷わない。思いっきり振りぬくと小気味いい高音と共に白球が一二塁間を抜けて行った。
ち。球足が速すぎてすぐにライトの目の前。シングルヒットか。当たりの良さが災いしたな。

出塁してすぐ、俺が二塁とピッチャーを交互に睨みつけているとCの若い一塁手が話し掛けてきた。

「今季初出塁おめでとうございます。恐れ入りますが出塁の申し込みはお済みですか?まだでしたら、こことここにお名前と印鑑をお願いします。それと盗塁の申請はなさいますか?この書類に記名捺印して、希望する塁にチェックをいれた後に二塁窓口にご提出してください。」

・・・所詮、市長の熱意程度ではお役所体質は変わらないということだな。

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