発表 2004/10/25

理想の社会

今年は西暦2027年。

俺はあまり興味がないが初めて国会議員の過半数を女性議員が占めた年から10年が経過したのだという。
と、同時に今年は日本初の女性総理大臣が誕生した年にもなったらしい。

ある日俺がテレビを観ていると、その女性総理がインタビューに応えて「日本にはまだまだ女性蔑視が横行しており、先進国と名乗ることすら恥ずべきこと」というようなことをのたまっておられた。
ウチの会社でもよくOLたちがセクハラだ、セクハラだ、と騒いでいるのを見るとこの日本という国は女性にとっていまだ住み易い国になってはいないらしい。

それから数週間が過ぎたころニュースでは総理のある発言が話題の的になっていた。
曰く「世の女性たちは男性からの好色な視線に耐えながら生活を送っています。これは大変に苦痛なことであり、全ての女性をこのような苦痛から救い『理想の社会』を築くことが私の天命であると信じます。かく言う私も若い頃は男性からさんざんいやらしい目で見られて大変に不快な想いをしました。」と。
この発言をテレビを通して聞いた男性視聴者は俺も含めて一斉に「嘘つけよ!」とツッコんだらしいが、まあ、現在74歳の総理のルックスしか知らない者がほとんどであるから、しかたがないと言えばしかたがない。

ともあれ、直後にこの発言を受けて『迷惑視線禁止法』が制定された。
以後女性を、特に胸や、おしりや、ふとももを(男性の性癖によって見る場所は違うだろうが)いやらしい目つきで見るだけで『視姦罪』という罪名を着せられ、痴漢行為に準じた刑罰を受けることになる。
これほどすんなり法案が可決した背景には、多くの女性議員が体面上「イヤ、私は若い頃にそんなふうに見られなかったわよ。」と言うわけにもいかず政党、派閥を超えて賛成せざるを得なかったということがあったらしい。

しかし我々男性にとって笑い話では済まなくなってきた。

案の定、この法律が施行されるやいなや街中は視姦罪の咎人で溢れかえることとなった。
実際に下卑た視線を女性に投げかけた老人、つい目がそういうところに行ってしまった某大学空手部主将、さらにはたまたま女性社員と目が合っただけの「会社の嫌われ者」も訴えられ、新法の餌食となったという。
中には女性をいくら見ても嫌がられないいわゆる「イケメン」という特権階級もいたのだがそれも最初の内だけで、しばらくすると「あの人ったら私のことを舐め回すような視線で見るんです」となぜかあまり見た目の宜しくない女性に訴えられるようになった。

こうなると世の男性はもはやホールドアップされているも同然。毎日うつむいて過ごすしかない。
俺自身いつ訴えられるかとビクビクしていたので、最近は寝る時と風呂に入る時以外は常にサングラスをかけているようになってしまった。
ストレスからか男性による凶悪犯罪数は増え、逆に出生率は低下の一途をたどった。
それでも数多くの女性解放運動家やら社会学者やら作家やらの女流知識人たちは快哉を叫び、全ての反論には「これまで女性はそれ以上に迫害されていたのよ」と応えた。

ウチの会社のOLたちも以前ほどセクハラだ、などと騒ぎ立てなくなり傍目にも生き生きと働けているようだ。
来月までには視姦罪で退職した部長に代わり、同僚だった女性が俺の上司に就任する予定である。
俺は給湯室でお茶を煎れながら、「これが『理想の社会』か・・・。」と低く呟いた。

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