我輩は猫である。名前はまだない。
『ホトトギス』誌に掲載された夏目漱石著『我輩は猫である』の書き出しである。
この作品の歯切れのいい文体、鋭い視点の風刺などは夏目漱石ならではだ。
では、もしこの作品を書いたのが夏目漱石ではなく他の誰かだったらどうなっていたのだろう。
サラリーマンの書いた『我輩は猫である』
もしもし、いつもお世話になっております。株式会社「猫商会」の大友です。
先日はどうもありがとうございます。
それでこの前お問い合わせいただいた新商品の名前の件なんですが、お恥ずかしながらまだないんですよ。申し訳ありません。
哲学家の書いた『我輩は猫である』
実証主義的見地に基づいて言うなら私は猫である。これはもちろん、形而上での話である。
適切な名前というのは未だに思い浮かばないが、問題にはしていない。なぜならこうして考える私が私であることに疑問を差し挟む余地がないからだ。名前などという俗物的なものになんの価値があろう。
市民運動家の書いた『我輩は猫である』
我々は「猫、猫や」と呼ばれて虐げられてきました。
きちんとした名前で呼ばれないというのは相手を対等なパートナーとして認めていないという現れではないでしょうか。
21世紀は「心と人権の世紀」であると言われて久しいというのに、なんということでしょう。
我々はこの点につきまして徹底的に糾弾する構えでおります。
『ダーティペア』シリーズでおなじみ高千穂遙の書いた『我輩は猫である』
ハイ。アタシ、猫。
誰がなんと言おうと猫よね。
見てよ、このしなやかな足。毛のツヤ。猫は猫でも特上クラスよ。
うっさいわね、アタシがそう言ってんだからそれでいいの。
名前がなんであろうと、その事実には関係ないわ。
『魔界都市＜新宿＞』シリーズでおなじみ菊地秀行の書いた『我輩は猫である』
路地裏に横たわる闇の中に、妖艶な瞳がきらめいていた。
俺はそのことに気がつき、足を止めた。
つかの間、目が合う。
瞳が笑った、ように見えた。
俺は背筋は一瞬にして凍りついた。
──ヤバい、これはこの世のものではない。
本能でそう悟ったのだが、なぜか視線をはずすことができない。蛇ににらまれたなんとやら、だ。
その刹那、闇から蝋細工のように白い腕が生えた。続いて油を塗りたくったようにヌメヌメと光る足が生えた。その次は、うおお、男なら見ただけでイッてしまいそうな、淫靡な曲線を備えた体が続く。
もちろん、全裸だ。少なめに見積もってもＤカップはあろう。こちらの期待は裏切らない。
その上、美の分子を凝固させて形作ったような体には、こちらも天上の名工が命を削って彫り上げたかのような絶世の美女の顔が乗っている。
俺は恐怖と欲情に締め付けられながら、この女と寝れるなら死んだって構うものか、と頭の中でうわごとのように繰り返した。
一歩、二歩とその美女は俺に近付いてくる。
吐息がかかりそうな距離まできて止まった。
「あたし、猫なの。」
神に捧げる音楽のような声色。言葉の内容は理解に苦しむものであったが、欲情がそれを上回った。俺の右手は意思と関わりなく、女の乳房に向けて伸ばされ始めた。
「な、な、なあ、君のことをなんと呼べばいい？」
この女の名前を叫びながら果てたい。心の底からそう思った。
「名前なんて、どうでもいいじゃないの。それよりもここで、抱いて頂戴。今、すぐに。」
『水滸伝』でおなじみ北方健三の書いた『我輩は猫である』
董超が馬に乗って、やってきた。
「よく、やってくれた。名はなんと言う。」
「特殊部隊『猫』の隊員に名前など、ありません。」
「名前が、ないのか。」
「はい。」
「寂しくは、ないのか。」
「理想のために戦い、いずれ名もなく死ぬ。『猫』なら誰でも心得ていることです。自分も、それでいい、と思っています。」
「そうか。では、俺が名をやろう。」
「名を、でございますか。」
「そうだ。男は友と、名で呼び合うものだ。」
「友。私が、董超様の。」
「お前は友だ。共に戦い、俺の命も救ってくれた。」
「それが、友ですか。」
「うむ。では俺はお前のことを、薛霸と呼ぼう。どうだ。」
「いい名だと、自分は思います。」
「では行こうか、薛霸。皆が待っている。」
「はい。」
薛霸は何年かぶりで笑っている自分に、気がついた。
吉幾三の書いた『我輩は猫である』
我輩はベコ（牛）である。名前は花子。
タモリの書いた『我輩は猫である』
背ぇ、高いね〜。
今更だが、ギャルの書いた『我輩は猫である』
ゎヵゞﾚ£ﾚヽﾚ£Йё⊃τ〃ぁゑ★Tょмаぇﾚ£маT=〃Tょﾚヽ★